青森地方裁判所 昭和41年(ワ)320号 判決 1968年2月26日
原告
柿崎いよ
被告
能登谷重信
主文
被告は原告に対し、金三三九、六〇一円およびこれに対する昭和四二年一月二二日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを一〇分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
この判決の第一項はかりに執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、金四〇九、六〇一円およびこれに対する昭和四二年一月二二日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、つぎのとおり述べた。
一、原告は、昭和四一年四月二日午後一一時ごろ、青森市大字美法三番地先の国道交さ点を横断歩行中、被告運転の普通乗用車青五せ三八六四号(以下本件自動車という。)に衝突され、よつて頭部外傷等の傷害を負つた。
二、被告は、その妻である訴外能登谷麗子所有名義の本件自動車を同訴外人から無償で借り受け、飲酒に行つたり娯楽その他の用に供するために本件自動車を運転していたものであつて、本件自動車の運行を支配し、その運行利益を享受していたから同自動車の保有者というべく、本件事故当時自己のために本件自動車を運行の用に供していたので、自動車損害賠償保障法第三条によつて、後記損害を賠償する責任がある。
三、本件事故によつて原告が蒙つた損害は、つぎのとおりである。
(一) 治療費金二九七、六〇一円
原告は、本件事故による受傷のため、昭和四一年四月三日から同年七月三〇日まで医療法人近藤病院に入院治療を受け、退院後も同年一〇月三一日まで同病院で通院治療を受けたが、これが治療費合計金二九七、六〇一円を支払つた。
(二) 附添看護料金七二、〇〇〇円
原告は、右近藤病院に入院中、昭和四一年四月三日から同年七月二日までの間に九〇日間附添看護人を雇わざるを得なくなり、一日金八〇〇円の割合による附添看護料金七二、〇〇〇円を支払つた。
(三) 原告の失つた得べかりし利益金二四〇、〇〇〇円
原告は、国鉄青森駅前の露店で果物等の販売を業としているもので、毎月少くとも金三〇、〇〇〇円の利益を得ていたところ、本件事故のため、昭和四一年四月三日から同年一二月二日まで八か月間右営業を休業せざるを得なくなり、その間少くとも金二四〇、〇〇〇円の得べかりし利益を失つた。
(四) 慰藉料金一〇〇、〇〇〇円
原告は、本件事故により、前記のとおり入院通院のうえ治療を受けざるを得なかつたが、現在もまだ頭重感、眼まい等の自覚症状があつて後遺症の疑があり、完治するまでには相当の期間を要し、これら精神的、肉体的苦痛を慰藉するためには金一〇〇、〇〇〇円が相当である。
四、損益相殺
原告は、本件事故に伴ない自動車損害賠償保険金三〇〇、〇〇〇円を受領したが、これを前記三の(一)の治療費金二九七、六〇一円の全額と前記三の(二)の附添看護料金七二、〇〇〇円のうち金二、三九九円に充当した。
五、そこで、原告は被告に対し、前記三の(二)の附添看護料金七二、〇〇〇円から自動車損害賠償保険金のうち金二、三九九円を控除した金六九、六〇一円と前記三の(三)の原告の失つた得べかりし利益金二四〇、〇〇〇円および三の(四)の慰藉料金一〇〇、〇〇〇円の合計金四〇九、六〇一円およびこれに対する本件訴状副本送達の日の翌日である昭和四二年一月二二日から支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
被告は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、請求の原因事実に対する答弁として、つぎのとおり述べた。
請求の原因事実中、同事実一および同事実四のうち原告が自動車損害賠償保険金を受領しこれを治療費に充当したことは認めるが、その額は知らない、その余の事実はすべて知らない。
〔証拠関係略〕
理由
一、原告主張の請求の原因事実一(本件事故の発生)は、当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、本件自動車は、被告の妻訴外能登谷麗子の所有名義となつているが被告ら夫婦の乗用に供せられていたものであつて、後記のとおり自動車運転の免許を取り消されるまでは被告が専らこれを運転していたこと、被告は、昭和四〇年一二月中旬ごろ、青森市内で本件自動車を運転中、衝突事故を起したため、昭和四一年三月中旬ごろ、青森県公安委員会から自動車運転の免許を取り消されたが、その一年後に再び自動車運転免許試験を受験してこれが運転免許を取得しようと思いたち、その間自動車運転の技術および感覚がにぶるのを防止する目的で、時折練習のため本件自動車を運転していたこと、および本件事故当時も自動車運転の練習を兼ねて青森市内の飲食店へ飲酒をするために本件自動車を運転して赴く途中、本件事故を惹起したものであることが、それぞれ認められる。
右認定事実からすれば、被告は、本件自動車の運行を支配し、その運行利益を享受していたものであるから、本件自動車の運行供用者というべく、前記のとおりその運行によつて原告の身体を害したのであるから、これによつて原告に生じた損害を賠償する責に任じなければならない。
二、そこで、本件事故によつて原告に生じた損害について判断することとする。
(一) 治療費
〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故により頭部外傷(皮下血腫)、左腰部および左大腿部打撲傷を受け、医療法人近藤病院で、昭和四一年四月三日から同年七月三〇日まで入院加療を、同年八月九日から同年一〇月二九日まで通院加療をそれぞれ受け、これが治療費として少くとも原告主張の金二九七、六〇一円を支出したことが認められる。
(二) 附添看護料
証人柿崎みや子の証言によると、原告は、前記受傷のため前記入院加療期間中、附添看護人を雇わざるを得なくなり、自己の三男亡柿崎正の妻であつた柿崎みや子に附添つてもらい、一日平均金八〇〇円の附添看護料として少くとも原告主張の金七二、〇〇〇円を支払つたことが認められる。
(三) 原告の失つた得べかりし利益
原告本人尋問の結果によると、原告は、昭和二二年ごろから国鉄青森駅前でリンゴ等の果物の露店販売をし、本件事故当時毎月金二〇、〇〇〇円ぐらいの利益を得ていたところ、本件事故のため、昭和四一年四月三日から同年一二月末日まで右営業を休まざるを得なくなり、その間少くとも金一七〇、〇〇〇円の得べかりし利益を失つたことが認められる。
(四) 慰藉料
本件事件により原告が受けた傷害およびその加療期間は、前記(一)認定のとおりであり、〔証拠略〕を総合すると、本件受傷当時原告には意識障害が認められたばかりでなく、通院加療が打ち切られた昭和四一年一〇月三一日当時にも頭重感、眼まい、脱力感等の頭部外傷後遺症が残存していたこと、現在においても頭がはつきりせず、殊に天候が悪い日は頭重感や目まいを感ずることが認められるところ、このような後遺症が今後も相当長く続くであろうことは容易に推測することができ、以上のような原告の蒙つた肉体的、精神的苦痛に対する慰藉料としては、金一〇〇、〇〇〇円が相当である。
三、損益相殺
証人柿崎みや子の証言および原告本人尋問の結果によると、原告は本件事故に伴なう自動車損害賠償保険金として金三〇〇、〇〇〇円を受領したことが認められるところ、原告は、これを前記二の(一)の治療費金二九七、六〇一円の全額と同二の(二)の附添看護料金七二、〇〇〇円のうちの金二、三九九円に充当したと主張するので、右充当額を被告が原告に対して支払うべき損害から控除すべきである。
四、以上のとおりであつて、被告は、本件事故により原告に生じた損害の賠償として、前記二の(二)の附添看護料金七二、〇〇〇円から前記自動車損害賠償保険金のうち金二、三九九円を充当した残額金六九、六〇一円と前記二の(三)の原告の失つた得べかりし利益金一七〇、〇〇〇円および同二の(四)の慰藉料金一〇〇、〇〇〇円の合計金三三九、六〇一円およびこれに対する本件訴状副本送達の日の翌日であること記録上明白な昭和四二年一月二二日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負つていることが明らかである。
五、よつて、原告の被告に対する本訴請求は、右認定の限度において正当であるから認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 辻忠雄)